17歳の少女に言われた一言【後編】

Takenori自身がこの記事を読み終わるまでにかかった時間は約4分です。

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17歳の少女に言われた一言【前編】に引き続き、後編を。

女性用の様々な物が販売されている店の中で出会った少女。

背もたれのないイスに腰をかけていた少女と、その足元に置かれていた新しいことがわかる靴と、少しばかり汚れている靴とが一緒に置かれていたことから、少女が試し履きをしているであろうことがわかった。

そこまではいいが、前回の終わりにも書いたように、少女が僕に向かってなにやら喋っていることに、僕は正直気が重くなっていたんだ。

少女の笑顔

奇声を発しつつ、何を示そうとしているのかがわからない身振りを披露しつつ、そんな少女と僕との間にはほんの数メートルの距離しかなかった、あの日あの瞬間。

それでも、僕はその少女に夢中になっていた。

なにしろその外見ときたら、中々お目にかかれないほどの透明感を醸し出す、美少女だったのだから。

最悪なことに、その美貌たるや完全に僕のストライクど真ん中。白い肌に黒い髪、目もパッチリしてて眉も濃く、おまけに華奢。

少女が見せる言動と相まって、「守ってあげたい」、なんて衝動に駆られていた自分が、そこにはいた。

初対面の僕に向かって、少女が何かを伝えようとしていることが、はっきりと伝わってくるほどのその身振りと奇声。僕は少女と意思を交わしたく思い、耳に神経を集中させて、少女が発する奇声を理解しようと試みた。

今になって思えば、少女が口から発していたのは奇声でもなんでもなく、靴が自分に似合っているのかを知りたかった単なる乙女心であったり、近付いてきた僕に対する挨拶であったりと、ごく自然の感情からなる言葉であった。

僕や他の人よりも、少しだけ喋るのが早く、少しだけ声色が高く、少しだけ舌足らずなだけの、ごく自然の感情からなる言葉。

それを、奇声、と捉えてしまっていた自分の心の狭さや知見の足りなさを、後になって後悔すると同時に、情けない気持ちでいっぱいにもなった。

それでも少女が笑顔で話しかけてきてくれることと、相変わらず何を表現していようとしているのかが瞬時には判断できない身振りを示してくれることに、僕は久しぶりに他人に心が揺らいでしまった。

「この子ともっと話がしたい。」

そう思った僕は、そのときいた店からすぐ近くの、こちらも複合施設の中にある某ドーナツ屋へ誘ってみた。

少女は少しだけ早く、少しだけ高い声で、少しだけ舌足らずな感じに、

「いいよ!」

と答えてくれた。

17歳の少女に言われた一言

靴を買った少女と共に向かったドーナツ屋で、ドーナツを選んでいる間も僕意外の人には奇声に聞こえるであろう声と、理解が難しい素振りをし続けている少女が僕の隣にいた。

もちろん周りの人の目線はそれなりに感じたし、なによりドーナツ屋の店員が少女をそういう目で見ているのを1メートルもない距離から僕も見ていたので、やはりと言うべきか当然と言うべきか、奇異の目で見られている少女と僕がいることを実感した。

でも、周りからどう見られたり思われてもいい。大切なのは自分の感情と言動だ。

なんなら、この少女と恋人同士として見られているのかもしれない、ということに誇らしさすら感じていた。

ドーナツ屋の中に用意されているテーブルにドーナツを置き、向かい合っているイスに座った少女と僕と。すると少女はテーブルの下に屈んで姿を見せなくし、少しだけ時間をおいてまた僕と向かい合った。

「ドーナツ代払ってくれてありがとう。」

と確かに聞き取れる言葉を発した少女。

「あれ?普通に喋ることできるの?」と思わず聞かない方がいいかもしれない内容の対応をしてしまった僕に、少女は嫌な顔一つせず、

「マウスピースを入れたら少しだけ症状が軽くなるんです。」

と言いながら、頬を指で軽く触って見せた。

聞いたところによると、思わず声が出たり、手が動いたり、そういう症状が出てしまう障害が11歳のときに発症したとのことで、それからの6年間は常に障害と症状と向き合ってきたと教えてくれた。

少女は、周りの人はもちろん、学校でも自分に対して向けられる目線もわかっているし、そういうことにももう慣れたと言っていたが。

呼吸をするのが苦しくて、夜も満足に眠ることが出来ない日が多いということが、なによりも辛いとのことだった。

福岡に住んでいるが、冬休みに親戚のいる和歌山へ家族で遊びに来ていて、その日は1人で買い物に出かけていたところを、

「かっこいいお兄さんに話しかけられました。」

と、相変わらずチラチラとしかこちらを見てくれない少女の態度は変わらずだったが、嬉しいことを言ってくれた。少女の中では、僕が話しかけたことになっているところだけ僕の心の中の疑問として残ったが。

それから1時間ほど、少女と色んなことを話した。

少女の好きな食べ物はお好み焼きで、出会った日の前日は、複合施設の中にあるお好み焼き屋に家族と親戚の全員で来たこと。

妹がいるが、妹は障害がないので羨ましいこと。

障害者のための学校ではなく、健常者が通う学校に通っているが、やはり奇異の目で見られること。

親は自分の治療のために、アメリカの病院にまで連れて行ってくれたこと。

もし、障害が完全に治らなければ、日本語を話すよりも英語の方が発音しやすいので、英会話学校に通っていること。

人種で差別するつもりはないが、日本人よりも外国人の方が、障害を持つ自分に対してフレンドリーに接してくれること。

等々、少女の障害やそれに関する身の回りの状況を、詳しく話してくれた。

僕はその日、夕方から友人と会う約束をしていた。その時間が迫ってきたので、少女に友人と会う旨とそろそろ帰る意思を見せた。

僕の期待と思い過ごしだったかもしれないが少女は残念そうな顔を見せると同時に、僕が帰る方向を確かめ、少女も帰る方向が同じだということで、途中まで一緒に帰ることに。

もしかしたら。

少女は僕に対して、

「話しかけてくれたお兄さん」

以上の感情を既に持ち始めていたかもしれないし、僕だって、

「連絡先を聞いても断られることはない」

くらいの感情は芽生えていた。

それでも、正直その少女とこれ以上深く知り合うことは、幾つかの理由から避けた方がいいという感情も同時に芽生えている自分がいて。

そのとき以上の関係になることを諦めるでもなく選ぶでもなく、ただ、その日起こった出来事、として少女との時間を終わらせる決心をした。

僕の家の近くまで来たところで、

「家がこの近くだから」

と告げ、ここでお別れだということを伝えた。

少女は少し頭を下げ、上げると同時に僕の目を見ながら、こんなことを言ってきた。

「男の人とドーナツを食べながら話すことが出来て嬉しかった。」

「誰も私に話しかけてくれないから。」

「普通の人になれた感じ!」

と。

僕は

「良かった。」

という言葉と、笑顔を返すことしか出来なかった。

すぐ隣に見えていたハズの少女が、信号を渡って角を曲がり見えなくなったとき、僕はこんなことを考えていた。

「あの子が17歳じゃなく、もう少し年上だったら、追いかけていたのかなぁ…」

と。

あれから数日が経つが、少女に言われた、

「普通の人になれた感じ!」

という一言を思い出すと、自分の感情の説明が付かないでいるが、なぜか涙だけは出てきてしまう自分がいる。

普通の人になれた感じという感情は、少女にとって普通の人である僕には、このまま永遠に理解できないのかな。


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